ヘリアデスの涙(琥珀とポプラ)
弟の死を悼む姉妹たち
パエトーンは、父を見たことがありませんでした。しかし、パエトーンの母クリュメネは、幼い頃から、パエトーンの父である、ヘリオスの事を話して聞かせていました。パエトーンは、太陽神である父ヘリオスの仕事(毎日、火の馬車を操って、太陽を運行させており、ヘリオスが仕事をしないと、太陽が顔を見せないこと)を知り、父を尊敬していたに違いありません。
パエトーンは、ある時、友人たちに父がヘリオスであることを打ち明けました。しかし、友人たちは全く信じてくれません。パエトーンは、父がヘリオスであることを証明しようと思い、母に父の居所を尋ね、ヘリオスの元へと向かいました。
太陽神ヘリオスは、パエトーンが自分の息子であることを認め、その証明にどんな望みであろうと、一つだけ願いを叶えることを約束しました。
パエトーンは、火の馬車を操りたいと願いでました。
火の馬車は、扱いがとても難しく、ヘリオス以外の神々(主神ゼウスでさえも)操ることが出来ません。ヘリオスは、戸惑いを隠せません。しかし、パエトーンは、どんな望みであろうと、と言ってくれた父の言質を盾に、火の馬車を操ることを許されます。
太陽が昇る時間になりました。パエトーンは、火の馬車に乗り込みました。
火の馬車は、大空の太陽の通り道を駆け抜け…。とはなりませんでした。火の馬車の扱いは、先述したとおり、大変に難しいものだったからです。
パエトーンの操る火の馬車は、彼の言うことを全く聞きませんでした。火の馬車は、太陽の通り道を無視し、暴れ始めました。そして、太陽の通り道を無視しただけではすみませんでした。
現在のヨーロッパ近くでは、火の馬車が、大地から遠ざかり、大地は凍り、人々はあまりの寒さにより、肌が白くなりました。髪の色も薄くなりました。
現在のアフリカ近くでは、火の馬車が大地に近づきすぎ、炎となって襲いかかりました。川は干上がり、森は焼け、大地は砂漠となりました。人々は、運良く炎に焼かれることはありませんでしたが、あまりの熱さで肌が黒くなり、髪の毛はチリチリになってしまいました。
炎は、神々の住むオリンポスにも迫っていました。このままでは、全てが焼き尽くされてしまいます。
この事を知ったゼウスは、パエトーンにいかずちを放ちました。
いかずちを喰らったパエトーンは、火の馬車から転がり落ちていきました。そして、エリダヌス川に落ちてしまいました。パエトーンはすぐに引き上げられましたが、すでに亡骸となっており、エリダヌス川の畔に埋葬されました。
ヘリアデス(パエトーンの5人の姉たち/ヘリアデスは、ヘリアスたちという意)は、パエトーンの死を悼み、墓の上で泣き崩れました。
ヘリアデスは、いつまでもいつまでも泣き続けました。いつの間にか、ヘリアデスの体は、ポプラの木となりました(ヘリアデス全員がポプラの木となった訳ではないようですが、詳しく何人かはわかりません)。
−左:ポプラ並木。右:ポプラの葉−
[ 写真提供 : 季節の花 300 ]
ヘリアデスの涙は、エリダヌス川に落ち、琥珀となりました。ポプラの木は、今でも琥珀色の涙(樹液)をその体内に、溢れんばかりにさせているのです。
<ギリシア神話>
このお話を楽しく掲載しているサイト。
※ご紹介したサイトでは、フェアトン(パエトーン)の父は、アポロンとなっています。ヘリオスとアポロンは、混同されたり、同一視されたりすることがあるようです。また、場合によっては、アポロンはヘリオスの後継者とされている場合もあります。今回ご紹介したサイトと名前を統一させることも考えたのですが、敢えて統一いたしておりません。ご了承下さい。